安井飛馬|バンタム級初戦で見えたポテンシャルと今後の課題
RIZIN LANDMARK 12で鹿志村仁之介と対戦した安井飛馬。バンタム級初戦で判定負けを喫したが、その中で見えたスタンド・グラップリング両面の進化、リーチを活かした戦い方、今後の課題を分析する。
RIZIN LANDMARK 12でバンタム級転向初戦に臨み、鹿志村仁之介選手に判定負けを喫した安井飛馬。 この試合、そしてこれまでのキャリアを通じて見えてきた安井選手の特徴と、今後の課題を整理してみたい。
◆ 経歴とスタイルの基盤
安井選手はMMAを始める前、打撃経験がほとんどなかった。 所属していたコブラ会でも、主にグラップリングや柔術を中心に練習しており、本格的なスタンド打撃の習得はJAPAN TOP TEAM(トライフォース赤坂)に移籍してからとなる。
現在のスタンドを支えるコーチ陣は3名。
- 小倉コーチ(JTT) キックボクシングをベースに、打撃とショット(タックル)の融合を指導。JTTでの指導経験を重ねる中で、MMA的な打撃理論を確立しつつある。
- 藤原俊志トレーナー(志成ボクシングジム) 朝倉海の元ボクシングトレーナーでもあり、基本的なパンチ技術を安井選手に伝授。
- 海外・地方でのトレーニング 宮崎のK’s LABや西内ジム、さらにオランダの名門「Mike’s Gym」で約1カ月修行を積んだ経験もある。
ただし、打撃歴はまだ2〜3年ほど。伸びしろが非常に大きい段階にある。
◆ 打撃の特徴と構築センス
安井選手のスタンドは、「ストライカーの距離」ではなく「テイクダウンを仕掛ける距離」を基準に構築されている。 そのため基本的に間合いは遠め。しかし、ここで生きるのが177cmの長いリーチだ。
- 遠い距離からの 踏み込みジャブ が秀逸。ノーモーションで伸びるパンチは相手が反応しづらく、的確にヒットする。
- ジャブを起点に、上半身クリンチ→テイクダウン、またはバックテイクやシングルレッグへと スムーズに連動する構成 を持つ。
- フレーム(腕による距離管理)を活かして、相手の侵入を抑えつつ反撃のタイミングを取る。
- カーフ・三日月蹴りなども使用するが、主に牽制とリズムコントロールの目的。
- 打撃全体は「緩急とフェイント」を重視し、スピードよりも 起こりの小ささ に意識を置いている。
ステップワークも秀逸で、大きなステップと小刻みな詰めを自在に使い分け、レベルチェンジを絡めたフェイントが多い。
スタンスはやや狭め。これはTDD(テイクダウンディフェンス)よりも、ショットと打撃の連動を優先したMMAスタンスだ。
◆ 組みとグラップリング能力
安井選手の組み技は主に上半身タックルとシングルレッグが中心。 低空タックルも得意で、レスリング経験がないとは思えないセンスを持つ。
特筆すべきは、相手のパンチに対するタックル反応の速さと精度。 狭いスタンスから「ストン」と沈み込むように膝を抜き、タイミング良く入る。
壁レスでは柔道系の足技と投げ技を多用。四つ組での体幹の強さも際立つ。 柔道出身らしく押さえ込みの安定感も高く、スクランブル局面でも強さを発揮している。 これにより、MMAではリスクの高い柔道投げも安定して使用できる。
総じて、テイクダウン(TD)とテイクダウンディフェンス(TDD)が非常に強い選手である。
◆ 柔軟性と身体能力
安井選手のもう一つの特徴は、異常なまでの関節可動域と柔軟性。 肩甲骨の動きが広く、打撃でもリーチ以上の距離を生み出す。
鹿志村戦では腕十字を完全に伸ばされた状態でも耐え切るなど、柔軟性と筋力のバランスが異常に高い。 “ネコ科のような身体感覚”を持つ選手と言っていい。
この柔軟性と体幹の強さが、投げ技・スクランブルの中での脱力と再加速を可能にしている。
◆ 今後の課題と方向性
今回の鹿志村戦では、内容的には悪くなかった。 しかし課題は**「状況分析力」—つまりセコンドワークと試合中の判断力**にある。
1Rで優勢と誤認した判断が、後半の攻勢不足に繋がった。 これはチームとしての課題でもあり、今後のJTTにとっても重要な改善点だ。
また、バンタム転向後のリーチ差をもっと活かす戦い方が必要だ。 177cmというリーチはこの階級でも長い部類。 フェザーでは中間的だった距離が、バンタムではアドバンテージになる。 このリーチを軸に、「リスクを抑えつつ攻める距離」を再構築していくことが求められる。
◆ コンディショニングと環境面
鹿志村戦ではややスタミナ面に課題が見えた。 黒薔薇戦ではもっと動けていたことを考えると、水抜きリカバリーの影響があった可能性が高い。
JTTにはヒロヤなど減量知識の豊富な選手もいるため、専門的な栄養管理やリカバリーの最適化を進めると良い。
また、S&C(ストレングス&コンディショニング)面では、西内ジムでのトレーニング継続が鍵。 遠征ではなく、東京滞在中にもクロスフィット系のジム(ブラックシップやHALEO代官山など)を利用して継続性を確保したい。
◆ 総括
安井飛馬という選手は、柔道のベースに柔術の知識、そしてリーチを活かしたMMA的スタンドを融合させようとしている途上にある。 そのスタイルは“グラップリング主体のオールラウンダー”だが、まだ完成形ではない。
次のステップは、
- 「打撃とテイクダウンのミックス」をさらに磨くこと
- 「相手に合わせた柔軟なスタンド戦略」を持つこと
- 「リーチと柔軟性を最大限に活かす構えの確立」
この3点になるだろう。
素材は一級品。 経験を積むごとに、安井飛馬は日本MMAの新しいタイプのファイターとして完成していくはずだ。